東京地方裁判所 昭和26年(行)71号 判決 1952年3月13日
川崎市池田町四十九番地
原告
佐野得寿
東京都千代田区大手町一丁目七番地
被告
東京国税局長
渡辺喜久造
右指定代理人
関根達夫
山田富久三
安部末男
渡辺豊
市原利之
岩上準二
岩杉徹馬
右当事者間の昭和二十六年(行)第七一号強制執行の目的物に対する異議事件について、当裁判所は次の通り判決する。
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
原告は、被告が訴外福田工業株式会社に対する国税滞納処分として昭和二十四年十二月九日川崎局第二二一六番電話加入権に対してなした差押行為はこれを取消す、訴訟費用は被告の負担とす、との判決を求め、その請求の原因として、被告は訴外福田工業株式会社に対する国税滞納処分として昭和二十四年十二月九日同会社名義の電話加入権川崎局第二二一六番を差し押えた。しかし、右電話加入権は原告がこれを昭和二十四年十一月九日訴外福田工業株式会社からその工場建物とともに買い受けたもので、原告の所有に属するものであるから、被告のなした右差押処分は違法で取消さるべきものである。原告は昭和二十五年六月十六日被告に対し異議を申し立てたが却下せられた。よつて、原告は被告に対し前記差押処分の取消を求めるため、本訴に及んだ。なお、原告は本件電話加入権を買い受けた当時川崎電話局え名義変更に関し照会したところ、同電話局において、讓渡を承認したが、福田工業株式会社の名義変更請求書の印鑑と届出印鑑と相違していたため、いまだに加入名義変更手続ができないでいるものである、と述べた。
被告指定代理人は、原告の請求を棄却する、との判決を求め、答弁として、原告主張の請求原因事実中、被告が原告主張の差押処分をしたこと、及び原告がこれに対し異議申出をなしたが却下せられたことはこれを認めるが、その他の事実は争う。仮に原告が本件電話加入権を右差押以前に訴外福田工業株式会社から讓渡を受けたとしても、右讓渡について電話規則第七条に規定する当該電話取扱局たる川崎電話局の承認がないから、右讓渡はいまだその効力を生じない。仮に右承認を讓渡の対抗要件と解するとしても、この承認を受けていない原告は本件電話加入権の讓受を以て第三者たる被告に対抗し得ないものであるから、本件差押処分は有効であつて何ら違法の点がない、と述べた。
理由
被告が訴外福田工業株式会社に対する国税滞納処分として昭和二十四年十二月九日同会社名義の電話加入権川崎局第二二一六番を差し押えたこと。及び原告が右差押処分に対し昭和二十五年六月十六日異議の申立をしたが却下せられたことは当事者間に争のないところである。
原告は、右電話加入権は原告においてこれを差押以前たる昭和二十四年十一月九日訴外福田工業株式会社から買い受けたもので、原告の所有に属するものであると主張するけれども、右事実を認むべき何らの証拠もないばかりでなく、仮に右買受の事実があつたものとしても、電話加入権の讓渡は、電話規則第七条の規定による取扱局たる川崎電話局の承認がなければ讓渡の効力を生じないものと解すべきである(昭和十五年(オ)第四四号大審院第四民事部同年十一月三十日判決参照)ところ、右承認のあつたことについての何らの証拠もないから、原告は本件電話加入権の権利者ではない。従つて、前記差押処分は有効であつて何ら違法の点がないから、原告の本訴請求は理由なく到底棄却を免れない。
よつて、訴訟費用の負担について行政事件訴訟特例法第一条民事訴訟法第八十九条を適応し主文の通り判決する。
(裁判官 菊池庚子三)